格言

 長女のプチ引越し荷物の中にこんな本があった。本田宗一郎語録『やりたいことをやれ』。

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 本田宗一郎は、最近あまり芳しい話題がない本田技研工業という会社の創業者だ。代表もホンダのことについてはちょっと詳しいので、それで長女が意識して選んだのか?仕事を辞めた今だからか?からないが、何か惹かれるものがあったのだろう。

 ケチをつけるようでなんなんだが、こういった読み物のほとんどは、本人の発言をそのまま書いていない。著者の都合がいいように脚色したり削ったりしている。著者が理解できるレベルで表面的に撫でているだけで、的を外していることが多い。いろんな解釈ができるところが良い格言が持つ魅力なのかもしれないが、まあ、間違いは間違いである。

 本田技研工業の中でさえ間違えて使っている場合がある。たとえば、ホンダの工場に行くと『安全無くして生産無し』というスローガンが掲げてあって、その下で「ケガをしないように作業しよう!安全無くして生産無し!」なんて掛け声をかけ合っているわけだが、本田宗一郎が伝えたかったことはそういうことではない。ほんとうの意味は、『お客様に安全な商品を届けなければメーカーの仕事が無くなるよ。』ということだ。会社というのはそうやって少しずつ劣化していく。

 『やりたいことをやれ』もオリジナルの言葉はちがう。というか、『やりたいことをやれ』くらい、わざわざ本田宗一郎に言わせなくても、その辺の親父がふつうに言うだろう。

 本田宗一郎はこう言ったのである。『自分のために働け!』続けて、『お前ぇ、俺が死ねと言ったら死ぬのか?!』と。

 本田宗一郎という狂人的な天才技術屋とひらエンジニアが技術論を戦わす場面で、安易に権威とか組織とか常識というものに屈しようとした者をそうやって叱ったのである。代表がその場にいたわけではないが、本田宗一郎から直に聞いた人から教えてもらったから確かだ。

 見事なのは、このたった30語足らずの言葉で仕事というものの原理原則をわからせていることである。真理の下では社長も平社員も平等なんだということ。上司に楯突くような生意気な社員こそ会社を変革してくれるのだということ。仕事で失敗しても命まで取られることはないということ。そういった会社を存続させるための肝のすべてがある。もちろん、自分がやりたいことをやれ、ということも含まれる。

 しかし、上品ではない。万人受けはしない。もしも本のタイトルが『やりたいことをやれ』ではなくて『自分のために働け!俺が死ねと言ったら死ぬのか?』だったとしたら、売れないだろうし長女も買わなかっただろうと思う。要は読者が望むから凡庸になってきたのだろう。本をダメにするのは読者であり、本田宗一郎の言葉を味気なくするのは社員である。今『俺が死ねと言ったら死ぬのか?』と社長に凄まれたら、それだけで壊れてしまう社員がいるかもしれない。

 代表が好きな本田宗一郎の言葉は『時間が一番フェアーな資源』というのと『理念なき行動は凶器であり、行動なき理念は無価値である』のふたつだ。みんな与えられた時間は同じ。自分のためより人のために。無価値のまま終わらないように精一杯行動したいと思う。
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コメント

極意
少林寺拳法の言葉で「正義無き力は暴力である、力なき正義は無力である」というのを聞いたことがありますが、憲法もビジネスも極意は一つだということでしょうね。
まったく同じですね!ただ、理念無き行動をする人、行動なき理念だけの人って、そういうことに気づかない鈍感な人が多いですね。困ったものです。

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